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評価:
三崎 亜記
祥伝社
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『道の意思』を感じ取りながら全国を歩く歩行技師と知り合い
沙弓は自分が失ったこの街での記憶を取り戻す決意をする
「序章 歩く人」
図書館で働く藤森さんは十年前の事件で消えてしまった第五分館の貸し出し記録を
関係者に伝える「担当者」を務める西山係長の仕事を興味深く感じる
「第一章 第五分館だより」
小さな頃から鐘の音が聞こえていた駿は「共鳴士」を目指す居留地の少女・鈴と共に
鐘の音が歪んでいる原因を探るべく谷本鋳物工房を訪ねる
「第二章 隔ての鐘」
バスの運転手の夫と共にこの世界での左手を失った持田さんは
走るはずのないバスの光を見ながら紙飛行機を飛ばし続け坂口さんと出会う
「第三章 紙ひこうき」
高校を中退した宏至が倉庫番をしながら裏通りで奏琴を引いていると
その音に惹かれて登校拒否中の若菜に声をかけられる
「第四章 飛蝶」
街の下に違法蓄積された余剰思念を制御する代償として
誰からも顔を覚えられないという後遺症を持った黒田さんは
彼を慕う供給管理公社の梨田さんを突き放す
「第五章 光のしるべ」
二年の時を経て再び街を訪れた幡谷さんは
再開発された「ひかり大通り」を歩きながら街の人々の声を聞く
「新たな序章 つながる道」
装丁:松田行正+日向麻梨子
写真:佐藤信太郎『非常階段東京』(青幻舎刊)
街のある地域にいた人々が突然消えてしまってから十年、
消えたはずの人によるラジオ局への投稿や図書館の利用記録も少なくなり
残された人々は新しい人生を歩もうとする。
第四章までは大切な人を失った人たちが
新しく大切な人を見つけていく再生の物語です。
第五章でこの不思議な現象が何故起こったのかが明らかにされます。
この本だけでも楽しめますが他の三崎作品と同じ世界なので
他の作品も詠んでいればどんどんこの街が立体的になると思います。
特に『失われた町』は第五章で触れられているように
似たような現象が起こるので必読。
居留地について知りたければ『コロヨシ!!!』がいいし
動物園のヒノヤマホウオウも「動物園」(『バスジャック』)を読んでいればにやりとしますよ。