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  • 2010.12.19 Sunday
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ケッヘル(下)

柳井がドナウ川で自殺し、彼の知り合いであった栗田も
ツアー先のプラハで橋の欄干から吊るされて殺された。
一緒にツアーに来ていた鬼頭とは別れ、
伽椰は榊原とマンハイムへ行くこととなった。
栗田が遺した手紙から連続殺人事件の原因となった事件を知り、
気を引き締めていたにも関わらず榊原も心筋梗塞で死亡。
若手ピアニスト安藤アンナと恋に落ちるが
彼女を疑い始めた伽椰はこれ以上彼女の手を汚さないために
最後の標的、辰巳を先に殺そうと考え始める。

父を亡くしてみなしごとなった鍵人は
最後に暮らした黒島の近くの無人島で美津子と出会う。
5歳で男にいたずらされた彼女の中には5人の人格があり、
男を怖がる彼女と鍵人はプラトニックな愛を育む。
彼女から宮崎の高千穂にある高校に誘われて共に入学し、
学園のマドンナとなった美津子に言い寄る男はたくさんいて
鍵人は気が気でない。
そしてついに夜神楽の日、恐れていたことが起こった。
写真:及川哲也 装丁:大久保明子

モーツァルトを聞きながら読むと美しさが倍増すると思います。
ここに神性を見出してしまうのもうなずける。
しかし後世にケッヘルがつけた番号に神性はないと思う。
あとケッヘルのナンバーだけでどの曲かわかるほどの
モーツァルティアンって実在するのか気になります。

並行していたストーリーがつながり殺人事件の真相が明らかになります。
鍵人は壮絶な半生を送っているのによく好人物に育ったものだ。
あれほどまでに美津子に固執していた辰巳が
千秋に執着していた理由がよくわからないのですが、
メンツの問題なのか面影を重ねていたのか。


ケッヘル(上)

逃亡生活を続けていた伽椰はドーバー海峡近くの町で出会った遠松に
鎌倉にある家の住込みのキャットシッターを頼まれ
3年ぶりに日本に帰ることにした。
伽椰が逃げていたのは政治家の辰巳直道、
そして彼から奪った妻の千秋からだった。
夫だった篤之の紹介で千秋に出会った伽椰は一目で惹かれ
千秋と駆け落ちをするが、次第に心中を考える千秋が恐ろしくなり
海外へ逃げ出したのだった。
遠松の紹介で伽椰はモーツァルティアンばかりを顧客とする
アマデウス旅行会社の添乗員の仕事に就き、
ウィーンの追悼ミサに行く柳井に付き添うことになる。

ママと桂子さんの2人に育てられた鍵人は
学校にもあまり行かず英才ピアノ教育をほどこされて育った。
しかし合唱団でオーケストラを指揮する実の父・鳥海武と出会ってしまい、
演奏会で彼の姿を見たママはショックで死んでしまった。
遠松グループのおじに引き取られた鍵人だったが
鳥海武に誘拐され、モーツァルトにゆかりのある番号の電車になって
全国を転々とする生活が始まった。
写真:及川哲也 装丁:大久保明子

モーツァルトづくしの情念ミステリ?です。
やっぱりこの冷たいのに熱く、どろっとしているのに美しい
文章にやられてしまう。

「このひとは体のまわりじゅうに水を湛えているかのようにしんとして凛々しく透きとおって見えるが、ほんとうは火のようにさみしいひとなんだ。マッチを擦ればたちまち骨まで燃え尽くしてしまいそうなほどの火種が体の奥に隠されていて、それを持て余しながら、おそれながら、ふるえながら、どうにかこうにかこの世界の片隅に居場所を見つけ、息をしているんだ。」
まさしくそのとおり。


カルテット!

評価:
鬼塚 忠
河出書房新社

素行が悪くて補導されてしまうような姉美咲、
会社をリストラされ再就職先を探す父直樹、
息子の音楽の才能を花開かせたい母ひろみ、
離婚寸前のぎすぎすした家庭を変えるために開は
おばあちゃんの誕生日に家族で演奏会を開くことを提案する。
高校のオーケストラ部で出会ったチェロの母とピアノの父、
それに小さなころ美咲が習っていたフルートと
開のバイオリンという変則カルテットだ。
父以外は渋々で気持ちもまとまらないまま演奏会に望み大失敗。
しかし開が近くのレストラン<かのん>でのステージを依頼され、
リベンジに張り切る美咲と父でたびたびトリオをすることとなった。
開のバイオリン技術と美咲のトークが評判となり
直樹の大学時代の同級生から開を有名オーケストラにと誘いが来た。
さらに永江カルテットのクリスマスコンサートも決まり
練習にも気合が入る開。
しかしオーケストラのコンサートと永江カルテットの演奏会が
ダブルブッキングしてしまう。
バイオリンの千尋先生にも相談し、オーケストラの方を優先することにするが。
装丁:斉藤可菜 装画:スカイエマ

音楽を通したホームドラマです。
正直お約束通りに話が進むので筋はだいたい読めてしまいますが
アットホームな感じがいいと思います。
ちょっと教育ママ的な感じがするけれどひろみが一番現実的かなぁ。
ここまでご都合主義を貫くなら就職先も決まっちゃえばいいのに。


正弦曲線

評価:
堀江 敏幸
中央公論新社

なにをやっても一定の振幅で収まる窮屈さに可能性を見出す
「優雅な袋小路」
山と田畑が直行する日本、緩斜面で構成される英国
「絶対無比の曲線を見つめて」
「人間は、善くないから」と話すイルカの声が正弦曲線だった
「沈没船とイルカ」
パジャマのポケットに何を入れるべきなのか考える
「昼のパジャマ」
孤島と無人島は似たイメージだが実際の定義は異なる
「曖昧な海に浮かぶふたつの島」
グライダーはふたつの風速の差を活用して上昇エネルギーに変換する
「風の接線」
落とすことを前提として測量士のおじさんに手帳を紹介してもらう
「野帳友の会」
聞くとは相手の言葉を受け止め、自分でも驚くような表現が出る可能性をもつ
「ぼんやりとは聞けない」
古書店で見つけた木の図鑑のあいだにたくさんの押し葉が入っていた
「押し葉が本のあいだから」
装丁:間村俊一

タイトルの正弦曲線に通じてイルカの音波とか
センターフライの描く放物線とかオブラートの楕円とか
曲線をモチーフにした小品集です。
ふとしたエピソードや外国のお店で出会った小物から
ぽーんと飛んだ発想がたくさんつまっています。面白い。


ストーリー・セラー

デザイン事務所の同僚だった彼女が小説を書いていると知り、
「読む側」の俺は無理矢理それを読んでしまった。
怒った彼女に対して平謝りし、
他の小説も読ませてもらう関係になって二年付き合い結婚。
彼女に小説賞への応募を勧めると、見事デビューを果たし一躍人気作家に。
出版社と「交渉」を重ねて次々と仕事を引き受けるが、
大学の文芸部にやっかまれてムックで酷評されたり、
文学かぶれの親戚たちにいろいろ文句を言われたりと
ストレスはたまる一方で、
ついには思考した分だけ生命力を削られるという難病に侵されてしまう。
「Side:A」
会社時代、屋上から降りてくる彼の目が濡れていた。
理由を聞くとなんと彼女の小説を読んでいたからだと言う。
お互い読者と作者という前提がなかった場合のことを考えて
踏み切れないでいたが、付き合うこととなり
彼に甘やかされながら専業作家としての生活を送っていた。
しかしある朝彼が交通事故にあったと連絡が入り、
検査の結果すい臓がんが見つかってしまう。
彼が最悪の結果にならないように逆夢を起こすべき文章を連ねるが。
「Side:B」
装丁:新潮社装丁室 本文写真:広瀬達朗(新潮社写真部)

どこまでが作中作なのかわからない、
作家の妻と一番の読者の夫が死に立ち向かう話が2本です。
Side:Aで最初の展開に無理を覚えつつもしんみりしていたら、
Side:Bで驚きのストーリーが明かされます。

有川さんはお父さんに何かコンプレックスがあるのかな、と
邪推してしまいます。
小説の主人公=作者でないことはもちろんわかっているけれど
『フリーター、家を買う』とか『図書館戦争』とか
親を信用せずに自分で道を切り開く話ばかりという印象が。


夏目家順路

評価:
朝倉 かすみ
文藝春秋

中学を出てブリキ職人となった清茂は妻と別れ子供も所帯を持ち、
近所の若者たちの草野球の監督をしていた頃を思い出しながら
隣に住む光一郎とスナックで飲んでいるときに倒れた。
息子の直は妻の利律子と共に初めての喪主をなんとか務め、
娘の素子は直の友人である作家田上との不倫中に連絡を受けて、
甥の娘である香奈恵はまったく付き合いはないが一応顔を出し、
スナックのママであるふゆみは店をくれた男のことを思い出し、
素子の夫の幸彦は主婦になってから冷たくなった妻について考え、
光一郎は自分の中に甦る清茂と会話し、
野球チームに入っていたトッチは当時の試合に思いを馳せ、
直の娘の詩織はおじいちゃんの死を「さつばつ」だと感じ、
別れた妻のかず子もひっそりと参列するのだった。
装丁:大久保明子 装画と扉絵:後藤美月

平凡な男の葬式に参加する身内や知り合いたちの群像劇。
それぞれいろいろ思うところがあって、
ただただ悲しむ人や遠い親戚だから一応来た人、
離れた家族に会うのが気まずい人、
初めて接する身近な死に対して受け止める人。
誰でも自分の人生についての本が一冊書けるはずだと言うけれど、
まさにそんな感じの小説です。


本日は、お日柄もよく

スピーチの極意 十箇条
一、スピーチの目指すところを明確にすること。
二、エピソード、具体例を盛りこんだ原稿を作り、全文暗記すること。
三、力を抜き、心静かに平常心で臨むこと。
四、タイムキーパーを立てること。
五、トップバッターとして登場するのは極力避けること。
六、聴衆が静かになるのを待って始めること。
七、しっかりと前を向き、右左を向いて、会場全体を見渡しながら語りかけること。
八、言葉はゆっくり、声は腹から出すこと。
九、導入部は静かに、徐々に盛り上げ、感動的にしめくくること。
十、最後まで、決して泣かないこと。

老舗製菓会社でOLをすること葉は
幼なじみで初恋の相手である厚志君の結婚式で
スピーチライターの久遠久美と出会った。
民衆党ナンバー・ツーだった厚志君のお父さんの
最後の代表質問も作った彼女のもとで
こと葉はスピーチの作り方を学ぶことにした。
そして会社を辞め、厚志君の初の議員立候補選挙を手伝うことになった。
相手の進展党のベテラン議員黒川大臣のスピーチを作るのは
広告代理店の若手実力派、和田日間足だった。
OL時代に彼の凄さを味わっていたこと葉は
彼に負けないスピーチを作るために俳人のおばあちゃんや
花嫁の恵理ちゃんの協力も得ながら選挙戦に挑む。
装丁:高柳雅人

スピーチライターの仕事を通した27歳OLの成長譚。
ですが、いろいろと詰め込みすぎな感じもします。
せっかく広報室配属になったのだからそこで励みつつ
恋愛も頑張るというストーリーでもよかったのでは。

ちょうど連載時が政権交代とかアメリカ大統領選の時期だったので
そこの時事ネタが大いに盛り込まれています。
主人公の初恋の男の子が民主党ポジションの党から立候補して
政権交代を主張するとか、CHANGEをキーワードにしたりとか。
スピーチライターの視点から選挙戦を描くのは面白いのですが
もっと素人感を出してもよかったなあ。
さらにここにラブを盛り込もうとするんですが
取ってつけたような感じになってしまっている。

結婚式のスピーチを控えている人は参考になるかな?


原稿零枚日記

温泉の近くで『苔料理専門店』で食事をとる。
子供時代に住んでいた家についてのインタビューで語る。
小学校の運動会巡りで借り物競争に駆り出され、
景品の学習ノートに原稿を書くことを思いつく。
マルセイユのバスで出会った”有名な作家”が誰だったか思い出せない。
生活改善課のRさんに学習ノートに原稿を書くことを止められる。
小石を拾いながら200字のあらすじ書きで食べていた。
盆栽フェスティバルでRさんと作家のWさんとはぐれる。
子泣き相撲で探し求めていた赤ん坊を受け取ろうとする。
ひとり、またひとりと消えていく現代アートのツアーに参加する。
本当のようで本当でない、フィクション日記。
装画:小杉小二郎 装丁:水木奏

最初はエッセイなのかと思っていたけれど
『苔料理専門店』あたりから疑いはじめて、
爪が苔色になったところでフィクションだとやっと確信しました。
小川さんの身になら起こっても不思議じゃないような気もします。

新人賞の下読みから始めたというあらすじ書きについてが
とても興味深かったです。
全体の構造と中心の流れ、支流の様子をぼんやりとつかみ、
小説の大切な支点となっている2,3の小石を拾う。
試しにこの小説でやってみようと考えましたが
まず突飛なことが細切れに置きすぎて流れが見つからない。
そして小石だらけのように思えてしまう。
それくらいひっかかるところの多い作品です。
結局頓挫したまま終了しました。うう。


首無の如き祟るもの

媛首村の駐在だった夫の記録と斧高少年の証言を合わせて
媛之森妙元は未解決事件を小説に記し始めた。
最初の事件は媛首村地主の本家筋である一守家の長女妃女子の
十三夜参りの儀式中の死、
次の事件は一守家の花嫁候補だった古里毬子、
そして一守家の長男である長寿郎の死、
最後の事件は二守家の二男である絋弐の詩だった。
しかもいずれの死体も首がなくなっていた。
まるで媛首村に古くから伝わる淡首様の祟りのように。
斧高が十三夜参り中に目撃したものは何だったのか。
そして長寿郎の首だけ戻されたのは何故だったのか。
妙元は読者に推理を呼びかける。
装丁:スタジオ・ギブ(川島進) 装画:村田修

淡首様の祟りが真剣に恐れられている村で
地主の跡継ぎたちが次々と首無し死体で見つかっていく。
祟りの伝承、連続殺人事件、跡継ぎ争いなど
人間の醜い部分がこれでもかというくらい登場し、
それらが全て必然として収まっている見事な作品です。
ミステリで説明できるところはきちんと提示する一方で
ホラーの余韻も残しているのが秀逸。
ミステリホラーの中にはトリックを説明せずに
人智を超えたもののせいにして投げてしまっていて
しっくりこないまま終わってしまうものもあるからなー。


追想五断章

大学を休学して伯父の古本屋に居候している芳光は
父親が遺したらしい小説を探してほしいと依頼を受ける。
依頼主の可南子の手元にはリドルストーリーの結末らしく文章が五つ。
最初の小説が掲載されていた同人誌に寄稿していた教授、
遺品の年賀状の差出人、と辿っていくうちにこの小説を書く背景に
『アントワープの銃声』という事件があったことがわかった。
可南子の母斗満子が首を吊って亡くなり、
父参吾に殺人の疑いがかけられたという事件、
可南子はすでに生まれていたはずだが彼女からは何も聞かされていない。
参吾が書いた手紙から四篇目は事件を扇情的に報じた
弦巻という記者に送られたことがわかる。
装画:小泉孝司 装丁:芥陽子(note)

父親が遺したリドルストーリーを辿って
現実に起きた事件の真相を明らかにしていく話。
とんとん拍子に進みすぎという感は否めないけれど
ラストのひねりもありプロットがとても上手い。
作中作はそのテーマのせいもあってダークなお伽噺風で、
米澤さんはこういうのも書けるのか、と引き出しの多さを見せられます。
これから芳光がさらにひねていかないかが心配です。


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